脳の病気と治療

脳の病気と治療

脳の病気について

治療方針について

当院では脳神経外科手術治療、脳血管内治療、回復期リハビリテーションなどを組み合わせ、それぞれの患者様に対して最も効果的な治療を行っています。ここでは具体的に私たちが行っている治療についてお話します。

 
<病院完結型脳卒中診療について>
脳卒中(stroke)は、高血圧・心疾患・腎疾患・糖尿病・脂質異常症などの循環および代謝異常が基礎となり発症する急性脳血管障害の総称です。
脳卒中急性期診療は、脳卒中学会が認定した脳卒中専門医師がリーダーシップをとり、脳神経外科、神経内科、循環器・腎臓・代謝内科、リハビリテーション(以下リハ)科など複数の診療科による横断的診療として行われます。一方で、脳卒中回復期リハが2007年に導入され、急性期から回復期にいたるリハ連携の重要性が明らかになりました。しかしながら、各病期のリハは異なる診療機関で行われることが多く、脳卒中診療全体としてのリハ連携は充分であると言えません。
われわれは、救急、急性期外科治療、内科治療と二次予防、急性期から回復期まで一貫したリハの全ての脳卒中診療が一つの施設内で行える「病院完結型脳卒中診療」を目指しています。そのためには、医師、看護師、薬剤師、リハスタッフ、コメディカル全職員の診療連携が必須であると考えます。

 
<急性期診療について>

〜 くも膜下出血 〜
くも膜下出血の原因の80%以上は脳動脈瘤破裂によります。
脳動脈瘤の発生原因は、病理所見における瘤壁中膜の部分欠損が重要とされ、最近の遺伝子解析結果から同欠損がタイプ3コラーゲン、エラスチンなど瘤壁の細胞外構成に関する遺伝子異常であることが判っています。また、脳動脈瘤破裂の危険因子は疫学的研究から高血圧症、喫煙、多量飲酒といわれています。
くも膜下出血の治療の主体は破裂脳動脈瘤の治療であり、動脈瘤の大きさ・部位、瘤頚部の広さ、血栓・解離の有無、年齢などにより治療戦略が検討されます。
当院では、軽症ないし中等症のくも膜下出血に対しては早期の確実なクリッピングを第一選択としますが、症例によっては瘤内コイル塞栓を行うこともあります。重症くも膜下出血では、脳血管攣縮(スパスム)対策はくも膜下出血急性期治療の最大の問題であり、早期手術における血腫の可及的洗浄・塩酸スファジルなど予防薬に加えて、循環血液量や血圧の管理(10~20mmHg高め)を行います。

〜 脳 出 血 〜
脳出血は、外傷などいわゆる外因性脳出血を除くと高血圧を基本とする脳動脈硬化が原因となる、高血圧性脳出血と、それ以外の原因(脳動静脈奇形、脳動脈瘤、脳腫瘍、脳梗塞、血液疾患など)により脳葉(皮質下)出血をきたす症候性脳出血に分けられます。
脳出血の治療は、発症後の血腫増大により外科治療を要する可能性があること、症候性脳出血の場合には原因疾患に対する外科治療が必要になることから、通常脳神経外科で行われます。
高血圧性脳出血の外科治療は、被殻出血、脳葉出血および小脳出血に対する血腫除去術を除き、予後改善効果は明らかにされていません。これら血腫除去術の適応は、血腫量31ml以上、意識障害ジャパンコーマスケール(JCS)20~30以下の被殻出血と、脳表からの深さが1cm以下の脳葉出血例、血腫径3cm以上神経所見憎悪または水頭症合併の小脳出血において有効とされています。
手術予後は、くも膜下出血と比較して要介護例が高率であるため、回復期リハの必要性は高くなります。

〜 脳 梗 塞 〜
脳梗塞とは、さまざまな原因により脳の虚血が起こった結果脳組織が壊死した病態をいいます。脳梗塞発症の危険因子として最大のものは加齢で、高齢化社会での脳梗塞の増加は避けられません。また、高血圧、心疾患、糖尿病、脂質異常症の他、運動不足(肥満)・喫煙・飲酒などの生活習慣が深く関係するといわれます。
臨床病型は、心原性脳塞栓症、アテローム血栓性梗塞、ラクナ梗塞、その他の4型に分類され、また、 脳血流低下の発症機序から血栓性、塞栓性、血行力学性の3つに分けられます。また、脳梗塞の治療上一過性脳虚血発作(TIA)は重要な病態です。TIAは初発症状が比較的軽症で、24時間(多くは数分)以内に症状が消失するものと定義されます。
発症機序は内頚動脈起始部の壁在血栓による微小塞栓、血行力学性、心原性塞栓、ラクナ病変、高ヘマトクリット血症など様々です。重要なことは、これらTIAはその後5年間に25~30%が脳梗塞に移行するという事実であり、TIAに対してはMRI・MRAによる精査、危険因子検査とともに、抗血小板剤(シロスタゾール、アスピリン、クロピドグレル)や抗凝固薬(ワーファリン)の服用が必要になります。
脳梗塞急性期治療の基本は内科治療であり、臨床病型別に薬物治療が計画されます。心原性脳塞栓症は、発症機序が心腔内血栓に基づく塞栓性であることから、抗凝固薬による再発予防治療適応となります。
アテローム血栓性梗塞は主幹動脈のアテローム硬化により、またラクナ梗塞は細動脈の動脈硬化性変性により血栓性閉塞をきたしたもので、頚動脈の壁在血栓由来の塞栓性閉塞、主幹動脈狭窄にともなう血行力学性機序のこともあります。通常、抗血小板薬のトロンボキサンA2合成酵素阻害薬(オザグレルナトリウム)、抗トロンビン薬(アルガトロバン)点滴注射を用い、血行力学性機序では、血漿増量薬(デキストラン)が有用なことがあります。また、急性期には脳保護薬(エダラボン)の併用により症状の進行を防ぎます。
脳梗塞の超急性期治療には、血管内治療としての経皮的血管形成術(PTA)と血栓溶解療法としてのrt-PA静注療法があります。rt-PA静注療法は、発症後3時間以内のCT上梗塞所見を認めない例、MRI拡散強調画像と灌流画像のミスマッチなどの可逆的虚血病巣を証明できる例が対象となりますが、治療にあたってはその適応を慎重に判断して、常に出血性梗塞の危険性を念頭におく必要があります。
脳梗塞に対する外科治療には、頚動脈内膜剥離(CEA)と外頚動脈-内頚動脈バイパス(STA-MCA吻合)があります。CEAの有効性は、症候性(過去6ヶ月以内に脳梗塞を発症したもの)の場合、内頚動脈狭窄の程度が50%以上の例、TIA無症候性でおおむね80%以上の例で認められており、STA-MCA吻合の有効性については、脳卒中ガイドライン2009に示されています。
その他の脳卒中には、脳動静脈奇形・海綿状血管腫・静脈洞血栓症・硬膜動静脈奇形・もやもや病などがあり、それぞれの治療戦略が必要です。

 

<脳卒中の危険因子>
脳卒中の危険因子としての高血圧症・糖尿病・高脂血症・心房細動の治療に関する エビデンスを記します。

〜 高血圧 〜
急性期の降圧目標は、脳出血で180/105mmHg、脳梗塞では220/120mmHgまで降圧不要(JSH2009)。
一次予防効果として、高血圧管理は重要であり、Ca拮抗薬とACE阻害薬は同等の有効性(30~40%減少)を有し(日本2000)、二次予防効果として、脳出血で50%、脳梗塞で24%に再発率の低下を認め、とくにACE阻害薬はTIAを含む脳卒中の再発率を28%低下させる(PROGRESS2001)といわれています。
なお、予防的降圧目標は診察室血圧で140/90mmHg以下です(JSH2009)。

〜 糖尿病〜
一次予防上、HbA1c1%低下につき脳卒中発症率が12%低下し(UKPDS2000)、糖尿病治療ガイドでの「良」の状態、すなわち空腹時血糖としては110~130mg/dl未満、食後2時間血糖値では140~180 mg/dl未満、HbA1c(NGSP)では6.2~6.9%未満を目標にします。

〜 脂質異常症〜
一次予防効果として、スタチン系薬剤は脳卒中発症率を22~32%低下、虚血性心疾患患者における脳卒中の発症率を30%低下させるといわれており、二次予防の治療目標値はLDLコレステロールで100mg/dl以下、HDLコレステロールで40mg/dl以上、中性脂肪(TG)で150mg/dl以下です(JAS2012)。

〜 心房細動〜
心房細動例における脳卒中発症リスクを、ワーファリンは64%、アスピリンは22%低下させます。ワーファリンの強度は、INRで2.0~3.0が推奨されますが、70歳以上の高齢者ではINRで1.6~2.6が推奨されています(脳卒中治療ガイドライン2009)。

〜 その他の危険因子〜
肥満と運動不足、喫煙、多量の飲酒、ストレスなどが脳卒中の危険因子とされています。

村田病院の目標は「脳卒中の総合診療」であり「患者さまが満足していただける良質で安全な医療」です。